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「ロバの本屋で、mt誕生の原点に立ち返る」の巻

岡山から鳥取と、オギハラナミさんと共に旅してきた「mt stock」プロジェクト。最後は、ちょっと足を延ばして山口県にやってきました。長門市の俵山温泉から山道をさらに進んだ先に、いのまたせいこさんが営む「ロバの本屋」があります。いのまたさんはかつて、オギハラさんと、そしてもう1人の女性、辻本歩さんと共に、「mt」シリーズが生まれるきっかけを作った方なんですよ。久々の再会とあって、思い出話に花が咲きました。

時間がゆっくりと流れる空間

お店の前にある、ロバの小さなオブジェが目印!

牛舎を改築したという店内は、厳選された本だけでなく、いのまたさんのセンスが光る生活雑貨や文具も並びます。

ふと目を向けた場所から、あっと驚くものが見つかりそう。すみずみまで探索したくなる空間です。

「紙もの」好きな2人、久々の再会

もともと、東京の経堂でギャラリーカフェ「ロバロバカフェ」を経営していたいのまたさん。お店を閉じ、ここ山口県に引っ越してきたのは2010年のことでした。そして2012年に「ロバの本屋」をオープンします。

本棚に見入るオギハラさん。
DIYで作ったという空間にぎっしり並んだ本のセレクトがすばらしいです。わざわざ遠くから訪れるお客さまもいらっしゃるそう。

カフェも併設しています。

いのまたさんとの久々の再会に、オギハラさんもうれしそう!一緒にいるのは看板犬のビクターです。オギハラさん、さきほどまで訪れていた鳥取の果実袋工場でいただいた小さな袋を見せます。「これ、かわいいでしょ。梨の実が小さいときにかける袋なんだって!」
袋を見ながらひとしきり盛り上がる2人。根っからの「紙好き」なんです。

工業用マスキングテープの「かわいさ」に気づく

さて、「mt」の誕生ストーリーについて、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、あらためてお伝えすると、いのまたさん、オギハラさん、辻本さん、3人の活動がきっかけだったんです。
オギハラさんと辻本さんがロバロバカフェに客として通ううち、紙ものや雑貨が好きという共通点に気づき、互いに情報を交換したり一緒に買いものに行ったりする仲になっていきます。3人とも工業用のマスキングテープのかわいさに早くから気づいており、中でも最もオリジナルな使い方をしていたのはオギハラさんでした。

「当時は工業用のマスキングテープを郊外のホームセンターまで買いに行ってたんです」
「そうそう、電車とバスを乗り継いで。荷物が重くなるから大量に買えなくて」
楽しそうに振り返る2人。
「当時は色も豊富じゃなくて、近くで買えるのは白と水色と黄色くらいしかなかった気がします」といのまたさん。

そんな2006年のある日、グラフィックデザイナーである辻本さんの提案を受け、3人はマスキングテープテープのかわいさや新しい使い方にフォーカスしたリトルプレスを発行することになりました。このリトルプレスは、ロバロバカフェのイベントで発売され、初版が完売、すぐに増刷することになります。
「その頃はしょっちゅう一緒に作業してました。紙を折って、綴じて、って」とオギハラさん。

さらに翌2007年には、マスキングテープを使った作品展を開催した3人。場所は東京を含む5都市と、広範囲にわたりました。このときは第2弾のリトルプレスの発売、そして自分たちで仕入れたマスキングテープを小分けにして販売したのです。
「1冊目のときは、私たちもめっちゃやる気がありましたが、2冊目は追い詰められてましたね。お正月に泣きながら作業していた記憶が……(笑)」とオギハラさん。

「カモ井加工紙」と交流がはじまる

2冊目のリトルプレスの制作時に、マスキングテープの工場を見学した記事をコンテンツとして掲載したいと考えた3人。「カモ井加工紙」に工場見学を依頼する連絡をし、1冊目のリトルプレスを送りました。この行動が、カモ井と3人をつなぐきっかけとなったのです。
リトルプレスを受け取った担当者たちは、工業用に作ってきた自分たちのテープをこんなふうにアートとして扱ってくれるなんて、と驚きつつ、どう対応すればいいかわからなかったそうです。それでも商品に対して愛情を持ってくれていることに感動し、工場を見てもらうことになりました。

そうして工場見学が実現するのですが、そのときはまだ新作を作る話には至らなかったと2人は振り返ります。
「実は、見学しながら『焦げ茶のマスキングテープを作ってほしいって言おうよ!』って言ってたんです」
「そう。でも当時の最低発注ロットがあって、何十万円とかかると言われて、1色だけでそんなに高いなら無理だね、ってあきらめちゃって(笑)」

「今は工場にこういう方たちが来ても、もう驚かなくなったんですけど、最初の頃は『誰が来たんだ?』みたいな雰囲気だったんです(笑)。当時は工場の中なんて、代理店にも見せてなかったですから」と、ご案内の対応をしたカモ井加工紙専務の谷口は言います。

工場見学後も、すぐに制作に結びついたわけではありませんでした。しばらく経った後、3人の活動に感化されはじめた担当者たちは「試しに作ってみよう」と思いはじめます。その際、「もし新しく20色を作るとしたら何色がいいか」という質問を3人に送ります。
すると、わずか数日で、熟考の末に選んだ20色の案が2つと、それぞれの根拠となる考え方が回答として戻ってきたのです。

「その20色に名前がついていたんですよ。我々、名前まで要求しなかったのに(笑)」と谷口。そう、3人は、一つひとつに日本の伝統色の名前をつけて提出したのです。こうして文具・雑貨としてのマスキングテープの試作が本格的にはじまりました。

その間、東京のロバロバカフェや、イベント会場に足を運ぶようになったカモ井加工紙の担当者たち。大勢の人が、工業用のマスキングテープをうれしそうに購入する様子を見てびっくりしたと言います。それは、3人がホームセンターなどで仕入れたテープを「この組み合わせがかわいい!」と2色ずつ小分けに包装したものでした。
「別メーカーのものと組み合わせて販売している、ということにまず衝撃を受けました(笑)。そして、目の前で手に取って買って行く人たちを見て、こんなに売れているんだということに本当にびっくりしたんです」と専務。

理想の「色」を求めて、試作を繰り返す日々

試作に取り組みはじめたカモ井加工紙。3人にテープの発色具合などについて意見を求めます。その際、3人が求めるクオリティは、これまで工業用のテープを中心につくってきた会社にとって想像もしたことのないようなハイレベルなものでした。
今でこそ、有名ブランドや海外のアーティストのさまざまなリクエストに対しても応えているカモ井加工紙ですが、その当時はテープの「色」について指摘されること自体がなく、大きなカルチャーショックを受けたと言います。
その後、3人は自発的にマスキングテープについてアンケート調査をするなど、新しいマスキングテープの誕生に大きく貢献しました。

そして何度も試作を繰り返した結果、2008年にカモ井加工紙から雑貨・文具用のマスキングテープ「mt」がついに発売されたのです。3人がいなければ、「mt」ブランドも生まれていませんでした。

それから、大分経ちました。いのまたさんは山口に移住し、新しい暮らしをはじめました。

「目の前の畑で育てている綿を収穫して、紡いで糸にするんです」と、いのまたさん。

ここでの生活を楽しんでいるいのまたさんの姿からは、「好き」を追求して暮らす人の信念を感じました。それは当時、東京で集まっていた3人の、かわいいものや、見て触って心地よいものを追求する姿にも共通します。

「紙もの」には、デジタルにはない、さまざまな質感のものに直接触れる喜び、自分たちで書いたり切ったり貼ったりできる楽しみがあり、素材が経年変化するうれしさがあり、そこに愛着が生まれます。
マスキングテープも、いのまたさん、オギハラさん、辻本さんが情熱を持ってかかわり、工夫して使う楽しさを多くの方に広めてくださったからこそ今の「mt」がある――そんなことをあらためて思い返した旅となりました。
いのまたさん、ありがとうございました!

取材協力:ロバの本屋 https://www.roba-books.com/
山口県長門市俵山6994
営業時間:土日月火+祝 11時~17時
Instagram https://www.instagram.com/roba_no_honya/
(企画展中は営業日の変更あり。臨時休業などもあるため事前にWebサイトやInstagram等で確認してください)

REPORT

オギハラナミさんと巡る旅のレポート

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「紙モノ探しの旅」で見つけたアイテムを使って、
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